予防歯科

東松島市鳴瀬歯科診療所 予防歯科

「歯をきれいに磨いて虫歯を予防しよう」という学校のポスターを、特に6月4日の虫歯予防デーでは毎年見聞きしてきました。

でも、これって本当なの?歯を磨いても虫歯になるじゃん、というのが実感ではないでしょうか。

ではこのポスターの標語はウソ、今はやりのフェイクなんでしょうか。

「歯を磨く」ということは「虫歯の予防」とどうかかわるんでしょう。その謎ときには何で虫歯になるのかを知る必要があります。

何で虫歯になる?

虫歯とは歯の表面に穴があく現象です。

歯の外側のエナメル質は石のように硬くて治療のときでもダイヤモンドの粒子のついたドリルでないと削れません。

因みにこんな優れもののドリルが出来たのは昭和35年頃ですからそれまでは痛い歯は抜き取ってしまうしかなかったようです。
痛かったでしょうね。


でも古代人の頭の骨には歯を人為的に抜いたあとがみられます。
どうやったのだろうと疑問に思いますが歯は意外と簡単に抜けます。
それは転んだりボールをぶっつけた瞬間に抜けてしまうことからもわかります。
でも痛くないように歯を抜くことを考え、今日の全身麻酔の基礎を築いたのは歯医者でした。納得です。

随分と横道にそれてしまいましたが、硬い歯は他の犬や猫なども同様です。
しかし弱点はありました。アルキメデスのアキレス腱みたいなもので、すっぱい酸には負けるのです。

身の回りに酸っぱい物はたくさんありますが、レモンのクエン酸、お寿司の酢酸、乳製品の乳酸などです。
またそれらをミックスした酸性飲料や炭酸飲料が多く出回っていますが、歯にとっては大敵です。

とはいっても口の中は非常に都合よくできているもので、このような酸っぱい物が口に入ると、いや梅干しなんかを思い浮かべただけでもジュワ―と唾がでてきて酸を害のないほどに中和し、歯を守ってくれます。

東松島市鳴瀬歯科診療所 予防歯科イメージ 梅干し画像

だから日常生活でお寿司を食べたら歯が溶けたなんてことにはなりません。
だったら何で溶けるんですか?唾が守ってくれているんでしょう?

ここからが大問題なのです。

唾が守ってくれている口の中で何で歯が酸に溶かさるのか。

この謎を解き明かしたのは実に19世紀の後半、1890年の昔のことです。

ドイツの細菌学者Dr.Millerが虫歯になった歯をせっせと薄くスライスし顕微鏡で覗いたところ虫歯の穴の中に小さな虫、細菌がウジャウジャいることを見つけたのです。
もしかしたらこいつらが虫歯の犯人ではないかと睨んだDr.Millerは次にこれらの細菌が歯を溶かすことのできる酸を作るかどうかを実験しました。
そしたら虫歯の中にいた細菌は普段私たちが食べている、甘―い砂糖や果物の中の甘みの果糖やブドウ糖などの糖分からたくさんの酸をつくることを見つけたのです。

これだ!
虫歯は口の中の細菌が人が食べる食物の中に含まれている砂糖などの糖分を分解してた酸をつくるから出来るんだということを発表しました。
いわゆる虫歯発生の「酸脱灰説」と呼ばれているセオリーです。
そして歯の表面に住み着いているこれらの細菌の塊が歯垢(しこう)或いはプラークと呼ばれ更に研究が進められました。

細菌がいて、それらが砂糖などを餌にして酸をつくることはわかったけどそれは実験室の試験管の中でのことで、本当にヒトの口の中のプラークの中にも歯を溶かすことのできるほどの酸を作っているのか、ということです。
つまり、生体での証明で人体実験が必要でした。

しかし、世界は第2次世界大戦に突入してしまい虫歯研究どころではなくなったのです。
この謎解きは第2次世界大戦が終わって間もなくたアメリカの研究者Dr.Stephanによって解明されました。
実験する人に歯磨きを3日間中止させプラークを作ってもらいます。
そして、そのあとで砂糖水でうがいをしてもらいプラーク中の酸の量を計ったのです。
そしたら見事に出ました。虫歯ができるほど多量の酸が溜まっていたのです。

しかし、めでたし!めでたし!では済まなくなりました。

何故なら砂糖は日常的に使うものですから、酸が出来るからと言って止めることはできないからです。
また、同じく砂糖などを食べていても虫歯になり難い人もいます。

何でだろう?

東松島市鳴瀬歯科診療所 予防歯科イメージ

プラークの細菌に何かカラクリがあるのではないかということで、プラーク中の細菌と砂糖との関係が調べられていったのです。
そして、1960年の中ころに、誰しもが一度は効いたことがあるミュータンス菌がやり玉にあがりました。
どうしてかというと、酸を作る細菌に乳酸菌がいます。この菌も砂糖から酸をつくりますがミュータンス菌と決定的に違うことは歯に引っ付かないのです。

ミュータンス菌は砂糖があるとネバネバ物質をつくり歯にくっつき周りに酸を貯めることが出来たのです。
更に動物実験でもミュータンス菌と砂糖との組み合わせが一番虫歯ができやすいことが証明され、1970年から2000年まで、ミュータンス菌=虫歯菌として虫歯予防研究の最大のターゲットとして研究されました。

しかし、現在はどうでしょうか。
ミュータンス菌研究はたまに見られるくらいで主役の座から消えたのです。
どうもちがうんではないか、勘違いしてたんじゃないかって。

何故か

  1. 虫歯が細菌の作った酸で溶かされて穴があくことは正解だが、口の中のプラーク中で砂糖から酸をつくるのはミュータンス菌以外にもたくさんのいる。
  2. 砂糖からネバネバをつくって歯にくっつからと言われてたが、ミュータンス菌は最初に歯に着く細菌だはなく、プラークが出来てから後で見つかることから、ミュータンス菌の歯に引っ付く性質は特段の意味がない。
  3. ミュータンス菌を殺菌する抗体を含んだ牛乳の実験で、牛乳の飲み始めはミュータンス菌は減るが、止めればまた増える。つまり、ミュータンス菌は他の感染症のような体外から侵入する特殊な細菌ではなく私たちの口の中で他の多種多様な細菌(口腔常在菌と呼ばれています)たちと共存できる細菌だということ。
  4. 虫歯の子供の口中からミュータンス菌が多く見つかるのは、絶えず砂糖をとれば当然のこととしてプラーク中に酸が溜まりやすくなる。そうなると、そのような酸っぱい環境下にも耐えうる細菌が相対的に多くなります。ミュータンス菌や前に紹介した乳酸菌は当にそれだったのです。だから、虫歯の口に多くいたのです。最初から多かったわけではなかったのです。
  5. 最後には、虫歯はミュータンス菌がいてもいなくてもできるのです。数に多少はありますが。

現在、虫歯研究はミュータンス菌や乳酸菌を含む口腔常在菌との共生の在り方に焦点が移ってきています。
今世紀の初め頃から子供の虫歯がどんどん減ってきています。
しかし、ミュータンス菌に対する特効薬が発明されたわけではありません。20世紀とは違う何か、生活習慣がそうさせているのです。

子供のむし歯の減少にみられる生活習慣を残世代で実行していけば虫歯は更に減っていくでしょう。
その生活習慣と口腔常在菌とのかかわりの解明こそ虫歯研究の主流になっていくでしょう。大変な道のりになりそうですが。

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